デンマーク人が書いた本を読んでいて、心に留まった言葉があった。
「今の自分の生き方を自由に選べるかどうかで、幸福度は変わる」
なるほど、と思った。
自分がどんな暮らしをしたいのか。
どんな仕事をしたいのか。
誰と、どこで、どんな時間を過ごしたいのか。
それを自分で選べることは、確かに幸せにつながるだろう。
でも、ふと思った。
誰もが平等に持っているものがある。
それは、時間だ。
お金や環境には差がある。自由に使えるお金も、住む場所も、人それぞれ違う。
けれど、時間は誰にとっても、一日24時間。
その時間をどう使うか。何に使い、何をしないのか。
そこに、自分らしく生きるための大きな鍵があるのではないだろうか。
時間に追われていた頃
数年前の僕は、そんなことを考えたこともなかった。
会社員として働き、独立してからも、仕事をつくり、収入を得て、次の展開を考える。
やるべきことがあり、目標があり、予定がある。
一日が終わると、あれもできなかった、これも残っている。
時間は、やりたいことを実現するために使うものだった。
もちろん、それが悪いわけではない。
何かを成し遂げる喜びもあるし、忙しいからこそ得られる充実感もある。
ただ、いつの間にか時間を自分のために使っているつもりで、時間に追われていた。
そして、忙しさの中にいると、それが当たり前になってしまう。
時間の使い方を変えるという発想すら、なかなか生まれないものだ。
森に来て、時間の流れが変わった
2022年春、長野県小諸市の森を開拓し始めた。
木を伐り、地面を整え、小さな家をつくり、少しずつ暮らせる場所にしていく。
森での暮らしには、自然のリズムがある。
朝、日が昇る。
木々の間から光が差し込む。
日中は作業をする。
やがて日が傾き、夕暮れが訪れる。
当たり前のことなのだけれど、以前よりも、その変化をよく感じるようになった。
今日は、あの丸太を動かそう。
ここに石を並べてみよう。
伸びてきた草を刈っておこう。
一日の中でできることを一つずつやっていく。
思ったほど進まない日もある。
天気が悪くて、予定どおりにいかない日もある。
それでも、今日できることを一つやれたらそれでいい。
明日になれば、また明日の時間がある。
そんなふうに考えられるようになった。
今日、元気でいられるという幸せ
森で暮らしていると、時間は単なる数字ではなくなってくる。
日の長さが変わる。
木々の色が変わる。
昨日まで気づかなかった草花が顔を出す。
自分が何かをしなくても、自然は動いている。
一方で、自分の身体は、毎日同じようには動いてくれない。
元気に作業ができる日もあれば、疲れが残る日もある。
だからこそ、今日、元気に起きられたこと。
自分の身体を使って、やりたいことに手をつけられること。
自分の意思で一日を過ごせること。
そんな当たり前のことが、少しずつありがたくなってきた。
昨日より大きな成果を出さなくてもいい。
何かを達成して、人に認められなくてもいい。
今日という一日を、自分の意思で過ごせた。
その積み重ねの中に、幸せがあるのではないだろうか。
自由とは、時間の使い方を自分で選べること
もちろん、誰もが好きなように時間を使えるわけではない。
仕事もある。家族もいる。生活のために必要なこともある。
僕だって、そうした現実から完全に自由になったわけではない。
それでも、自分の時間の使い方を少しずつ変えることはできる。
何を優先するのか。
何を手放すのか。
どこに身を置くのか。
どんな時間を大切にするのか。
すべてを一度に変えなくてもいい。
一日の中に、自分のためだけに使う時間をつくる。
何かを生産するためでも、誰かの期待に応えるためでもなく、自分が心地よいと思える時間を過ごしてみる。
そんな小さな選択から、暮らしは変わり始めるのかもしれない。
森時間に身を置いてみる
森の暮らしを勧めたいと思うのは、自然が豊かだから、空気がおいしいから、それだけではない。
ゆったりと流れる時間の中に身を置くことで、自分にとって本当に大切なものが、少しずつ見えてくると思うからだ。
何かをしなければならない時間から、何をしてもいい時間へ。
成果を求める時間から、過ごすこと自体を味わう時間へ。
そして、誰かの時間ではなく、自分自身の時間へ。
森に移住しなくてもいい。
別荘を持たなくてもいい。
まずは、日常から少し離れて、自然の中で過ごす時間をつくってみる。
空を眺める。
木々の間を歩く。
お茶を飲む。
何もせず、ただ座っている。
そんな時間の中で、自分の心がどう変化するのかを感じてみる。
もしかしたら、そこで初めて気づくことがあるかもしれない。
幸せになるために、何かを手に入れる必要があると思っていたけれど、本当に必要だったのは、自分の時間を取り戻すことだったのかもしれない、と。
今日も森に朝が来た。
日の光が差し込んでくる。
さて、今日は何をしようか。
できることを一つやって、あとは森の時間に身を任せよう。
そんな一日を、これからも積み重ねていきたい。

